■土壌改善、低コスト化に期待/リン酸など豊富、安全基準クリア
下水処理場は通常①沈砂池②最初沈殿池③反応タンク④最終沈殿池⑤消毒施設――の五つの工程を経て水を浄化し、川へ放流する。②~④の工程で排出される汚泥の量は、埼玉県全体で年間約50万トン。ほとんどが焼却され、灰をセメントの原料などに活用していたが、堆肥や肥料に転換することで、地域での資源循環に寄与できる。
このうち、桶川市にある元荒川水循環センターは、県北部3カ所の焼却炉がない流域下水道施設の汚泥を活用して堆肥を生産。汚泥を濃縮、脱水し、微生物の働きで有機物を分解する「好気性発酵」によって堆肥化する。
県は昨年、汚泥を短期間で発酵できる試作試験機を同センターへ導入。これにより、植物の成長に欠かせないリン酸が平均5・2%、窒素が平均3・6%と多く含まれ、悪臭のない堆肥が出来上がった。また、カドミウムや水銀などの有害成分も基準値以内で、安全基準はクリアされている。
県北部3カ所の下水道施設から排出される年間約1万トンの汚泥を全て堆肥にすると約2000トン生産でき、二酸化炭素(CO2)を年間約740トン削減できると見込まれている。県は今後、大量の汚泥を発酵処理できる「堆積型」による本格実施をめざし、試作を重ねる予定で、堆肥を土壌改善や花卉栽培などに有効活用することを考えている。
一方、戸田市にある荒川水循環センターは、汚泥の肥料化を進める。汚泥焼却炉で発生した燃焼灰を活用した肥料「荒川クマムシくん1号」を開発。下水汚泥などの国内資源から作られる肥料の利用促進のために農水省が新設した「菌体りん酸肥料」に登録したことで、肥料メーカーに提供できるようになった。
同肥料は、リン酸の成分保証が16%以上あり、有害成分も国の基準以下の数値。他の肥料や原料と混合・調整を通じ、海外からの輸入に頼っている化学肥料の代替として安定供給できる。
下水汚泥の活用に向け、公明党県議団は、蒲生徳明団長が2017年2月定例会予算特別委員会で、安藤友貴議員が22年9月定例会で訴えるなど、一貫して推進してきた。県は今後、焼却施設のある他の場所でも燃焼灰の肥料化の実現を検討する方針だ。県下水道事業課の水橋正典課長は、「地域の農家に使ってもらい、下水汚泥の堆肥と肥料の認知度向上や安全性、効果をPRして利用者を獲得していきたい」と語っていた。